神功皇后③|気比大神と名前の交換・酒楽の歌

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氣比大神との名前交換

現代語

建内宿禰命(たけうちのすくねの)は、皇太子に禊をしていただくために、淡海から若狹国(わかさのくに)を巡って、高志前(こしのみちのくちのさき)角鹿(つぬが)に假宮を作って住んで頂きました。

ある夜のこと。その土地の大神「伊奢沙和氣大神」(いざさわけの大神)の命(みことのり)が、皇太子の夢に現れました。それは、

「私の名と御子の名とを交換しようではないか。」

という命(みことのり)でした。

「それは畏れ多いことです。命(みことのり)のとおりに致しましょう。」

と応えました。すると大神は、

「明日の朝、浜辺に来るがよい。名前を交換するための幣帛があるはずだ。それを献上せよ。」

と言いました。

翌朝、浜辺に出ると、ある浦に鼻が破れたイルカが打ちあげられていました。御子は使いを遣り、

「御食(ミケ)の魚(ナ)を給わりました。ですので、御食(ミケ)の名(ナ)を献上しましょう。」

と言いました。

そんなことから、その神の御名を御食津大神(みけつおほかみ)といいます。今の氣比大神(けひのおほかみ)です。

また、イルカの鼻の血がくさかったので、その浦を血浦(ちうら)といいました。今は都奴賀(つぬが)といいます。

太子がお戻りになられたときに、母の息長帶日賣命が、待酒(まちざけ)を献上し、詠まれた歌は、

 

この御酒は、わが御酒にあらず 酒のかみ
常世にいます いわたたす 少名の御神
祝い祝って 祝い狂い
祝い祝って 祝い回り
献上された神酒なのよ
残さすことなく お飲みなさい
さあさあ

このように詠って、御酒を皇太子に差し上げました。そこで、建内宿禰命が皇太子に代わって、歌でお答えしました。

この御酒を 醸した人は、
その鼓 臼に立てては
歌いながら 醸したかもね
舞を舞いつつ 醸したかもね
飲めば飲むほど、楽しくなるよ
さあさあ

この歌は酒楽(さかくら)の歌といいます。

仲哀天皇は五十二歳、壬戌みずのえいぬの年の六月十一日に亡くなりました。御陵は河内の恵我の長江にあります。

神功皇后は100歳、壬戌年六月十一日にお亡くなりになり、狹城楯列陵(さきのたたなみのみささぎ)に埋葬されました。

原文

故、建內宿禰命、率其太子、爲将禊而、經歷淡海及若狹国之時、於高志前之角鹿、造假宮而坐。爾坐其地伊奢沙和氣大神之命、見於夜夢云「以吾名、欲易御子之御名。」爾言禱白之「恐、隨命易奉。」亦其神詔「明日之旦、應幸於濱。獻易名之幣。」故其旦幸行于濱之時、毀鼻入鹿魚、既依一浦。於是御子、令白于神云「於我給御食之魚。」故亦稱其御名、號御食津大神、故於今謂氣比大神也。亦其入鹿魚之鼻血臰、故號其浦謂血浦、今謂都奴賀也。

於是、還上坐時、其御祖息長帶日賣命、釀待酒以獻。爾其御祖御歌曰、

許能美岐波 和賀美岐那良受 久志能加美 登許余邇伊麻須 伊波多多須 須久那美迦微能 加牟菩岐 本岐玖琉本斯 登余本岐 本岐母登本斯 麻都理許斯美岐叙 阿佐受袁勢 佐佐

如此歌而、獻大御酒。爾建內宿禰命、爲御子答歌曰、

許能美岐袁 迦美祁牟比登波 曾能都豆美 宇須邇多弖弖 宇多比都都 迦美祁禮迦母 麻比都都 迦美祁禮加母 許能美岐能 美岐能 阿夜邇宇多陀怒斯 佐佐

此者酒樂之歌也。

凡帶中津日子天皇之御年、伍拾貳歲。壬戌年六月十一日崩也。御陵在河內惠賀之長江也。皇后、御年一百歳崩、葬于狹城楯列陵也。

簡単な解説

高志前(こしのさき)の角鹿(つぬが)

今の、福井県敦賀市です。高志の国は、越前・越中・越後ですので、高志前とは、高志国への入り口というような意味かと思います。

角鹿は、本文にもあるように、イルカの鼻の血がくさかったので、その浦を血浦(ちうら)と名付けられ、今は都奴賀(つぬが)となり、角鹿(つぬが)となり、敦賀(つるが)となったということでしょう。

御食津大神(みけつおほかみ)

本文にもあるように、今の気比大神とのこと。敦賀市の気比神宮の主祭神です。

イザサワケ大神という土地の神が、皇太子と名を交換しようという提案をします。

普通に考えると、皇太子の名はホムタワケ命ですから、名を交換すると、土地の神がホムタワケとなり、皇太子がイザサワケとなりますよね。

でも、よくよく読むと、どうやらイザサワケ大神は、別に交換したかったのではなく、御食津大神という名が欲しかっただけのように思えます。

そこで、まず皇太子に名を与えて、その名を自分に献上させるという手法で、御食津大神を名を得たわけです。

何故それほどまでに、御食津大神の名が欲しかったのでしょう。格が違うのです。

酒樂

久しぶりに、少彦名神の名前が登場しましたね。酒造の神、医薬の神、温泉の神、石の神など、様々な神格を持つと言われています。

「醸す」(かもす)とは、酒を造ることです。「かも」=「かむ」です。

古代の酒は、米を噛んで吐きだしたものに、自然界にいる酵母が入り込むことで発酵します。映画「君の名は」で、ミツハが噛酒を造ったように。。。

では、なぜ、米は噛まないとお酒にならないのでしょう。それは、、、

アルコール発酵とは、酵母菌がブドウ糖を分解してアルコールと二酸化炭素を作り出すことをいうのですが、

その酵母菌は、ブドウ糖や果糖レベルの大きさのものでないと分解できないんです。

ところが、米の主成分はデンプンです。ブドウ糖などよりも凄く大きな固まりなんです。酵母には大きすぎて、分解できないんです。

ですから、米から酒を造ろうと思うと、まずは、デンプンをブドウ糖や果糖レベルの大きさに分解する必要があります。これを糖化といいます。

そこで、唾液に含まれるアミラーゼの登場です。理科で習ったと思います。アミラーゼはデンプンを分解してくれる酵素でしたよね。

デンプンを糖化して、発酵させる。これが日本酒造りのメカニズムなのです。

そうそう。現在の日本酒は、さすがに噛んでないですよ。麹菌という酒造専用のカビを使って糖化させています。

 

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