大国主神⑤|恋の歌(神語り)

2019年9月4日

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沼河比賣との恋

現代語

八千矛神(ヤチホコの神=大国主神)が、高志国(こしのくに)の沼河比賣(ヌナカハヒメ)と結婚しようとして、沼河比賣の家に着いた時に歌を詠みました。

 

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八千矛の神は
八嶋国で妻を求められず
遠い遠い越国
賢い女がいると聞き
美しい女がいると聞いて
結婚しようと出掛けられ
夜這いに何度も通い
太刀の紐もまだ解かず
羽織も脱がずに
乙女の寝所の板戸を
押しゆすって立っている
引いてみたりして立っていると
青い山ではヌエが鳴き
野では雉は叫んでいる
庭の鶏も鳴いている
腹の立つ鳥だ
こんな鳥は殺してしまえ

そこで、沼河比賣は、戸を開けずに内から歌を詠みました。

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八千矛の神様
私はしおれた草のよう
私の心は漂う水鳥のよう
今は自分のことしか思わない水鳥ですが
やがてはあなたの鳥になるでしょう
だから殺さないでください
靑山に日が沈んだら、
真っ暗な夜になりましょうでもあなたは、朝日のようににこやかに来て
コウゾの綱ような白い腕を
泡雪のような若い乳房を
そっと触って抱き合って
ぎゅっと手と手を握り合い
玉のような綺麗な腕を絡めて
足を伸ばしてくつろぐの
だから、恋いそがないでくださいな
八千矛の神様よ。

その夜は逢わずに、明くる日の夜にお逢いになりました。

原本

此八千矛神、將婚高志國之沼河比賣、幸行之時、到其沼河比賣之家、歌曰、

夜知富許能 迦微能美許登波 夜斯麻久爾 都麻麻岐迦泥弖 登富登富斯 故志能久邇邇 佐加志賣遠 阿理登岐加志弖 久波志賣遠 阿理登伎許志弖 佐用婆比爾 阿理多多斯 用婆比邇 阿理加用婆勢 多知賀遠母 伊麻陀登加受弖 淤須比遠母 伊麻陀登加泥婆 遠登賣能 那須夜伊多斗遠 淤曾夫良比 和何多多勢禮婆 比許豆良比 和何多多勢禮婆 阿遠夜麻邇 奴延波那伎奴 佐怒都登理 岐藝斯波登與牟 爾波都登理 迦祁波那久 宇禮多久母 那久那留登理加 許能登理母 宇知夜米許世泥 伊斯多布夜 阿麻波勢豆加比 許登能 加多理其登母 許遠婆

爾其沼河比賣、未開戸、自內歌曰、

夜知富許能 迦微能美許等 奴延久佐能 賣邇志阿禮婆 和何許許呂 宇良須能登理叙 伊麻許曾婆 和杼理邇阿良米 能知波 那杼理爾阿良牟遠 伊能知波 那志勢多麻比曾 伊斯多布夜 阿麻波世豆迦比 許登能 加多理碁登母 許遠婆
阿遠夜麻邇 比賀迦久良婆 奴婆多麻能 用波伊傳那牟 阿佐比能 惠美佐加延岐弖 多久豆怒能 斯路岐多陀牟岐 阿和由岐能 和加夜流牟泥遠 曾陀多岐 多多岐麻那賀理 麻多麻傳 多麻傳佐斯麻岐 毛毛那賀爾 伊波那佐牟遠 阿夜爾 那古斐支許志 夜知富許能 迦微能美許登 許登能 迦多理碁登母 許遠婆

故、其夜者、不合而、明日夜、爲御合也。

簡単な解説

沼河比売

新潟県糸魚川市にその伝承が残る沼河比売は、高志国の女神。姫川を神格化した神であり、翡翠を神格化した神でもあると聞きました。

大国主神は、出雲に始まり、東は新潟までを平定したことが伺えますね。これも鉄や、勾玉の原料となる翡翠が関係するのでしょう。

もうひとつ、記紀では述べられていませんが、地域の伝承によると、大国主神と沼河比売との間に生まれた御子の一人が「建御名方命」であるとされています。

そこでは、建御雷之男神に追いかけられて諏訪の地に逃げ込んだのではなく、姫川を遡って諏訪に鎮まったとされています。追いかけられた話は、もう少し後の国譲り神話に出てきます。

 

須世理比売命との、、、

現代語

正妻の須勢理比賣は、大変嫉妬深い人でした。なので夫は憂うつになり、出雲から倭国に逃げようと、旅支度を整え、片手を馬の鞍に掛け、片足をあぶみに掛けて歌を詠みました。

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黒い衣装にしてみたが
沖の水鳥が胸元を見るように
羽ばたくように袖を振ると
似合っていない装いであったので
浜辺に脱ぎ捨てよう

翡翠のような靑い衣装にしてみたものの、
沖の水鳥が胸元を見るように
羽ばたくように袖を振ると
これも似合っていなかったので
これも浜辺に脱ぎ捨てよう。

山の畑に蒔いた茜を搗いた汁で染めた衣装にして
沖の水鳥が胸元を見るように
羽ばたくように袖を振ると
これはよく似合っていた

愛しい妻よ、
鳥が群れになって飛んでいくように
私が大勢で一緒に旅立ったならば、
渡りの鳥のように
一緒にここを飛び去ったならば
泣かないとあなたは言うが

山の一本のススキのようにうなだれて、
朝の雨で霧が立ち込めるように泣くだろう。
若草のように若々しい妻よ。

そのときに妻が大きな杯を取って、近づいてきて杯を奉げて、歌を詠まれました。

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八千矛神よ。私の大国主神よ。

あなたは男ですので、
あなたが行かれる島の岬ごとに、
磯の港ごとに、
妻を持たれることでしょう。

しかし、私は女ですから、
あなたを除いて男はいません。
あなた以外には夫はいません。

今日だけは、綾織の帷の下で、
むしの柔らかな布団に包まれて、
楮の夜具のさわさわと心地よいなかで、

泡雪のような若い乳房を
コウゾの綱ような白い腕を
そっと触って抱き合って
ぎゅっと手と手を握り合い

玉のような綺麗な腕を絡めて
足を伸ばしてくつろぎましょう

それまでは、さ御酒を召し上がってくださいませ

このように歌われて、酒坏を交わし、首に手を掛け合って、どこにも行かずにずっと今もここに鎮まっていらっしゃいます。

この歌を神語(かむがたり)といいます。

原本

又其神之嫡后、須勢理毘賣命、甚爲嫉妬、故其日子遲神、和備弖三字以音、自出雲將上坐倭國而、束裝立時、片御手者、繋御馬之鞍、片御足、蹈入其御鐙而、歌曰、

奴婆多麻能 久路岐美祁斯遠 麻都夫佐爾 登理與曾比 淤岐都登理 牟那美流登岐 波多多藝母 許禮婆布佐波受 幣都那美 曾邇奴岐宇弖 蘇邇杼理能 阿遠岐美祁斯遠 麻都夫佐邇 登理與曾比 於岐都登理 牟那美流登岐 波多多藝母 許母布佐波受 幣都那美 曾邇奴棄宇弖 夜麻賀多爾 麻岐斯 阿多泥都岐 曾米紀賀斯流邇 斯米許呂母遠 麻都夫佐邇 登理與曾比 淤岐都登理 牟那美流登岐 波多多藝母 許斯與呂志 伊刀古夜能 伊毛能美許等 牟良登理能 和賀牟禮伊那婆 比氣登理能 和賀比氣伊那婆 那迦士登波 那波伊布登母 夜麻登能 比登母登須須岐 宇那加夫斯 那賀那加佐麻久 阿佐阿米能 疑理邇多多牟叙 和加久佐能 都麻能美許登 許登能 加多理碁登母 許遠婆

爾其后、取大御酒坏、立依指擧而歌曰、

夜知富許能 加微能美許登夜 阿賀淤富久邇奴斯 那許曾波 遠邇伊麻世婆 宇知微流 斯麻能佐岐耶岐 加岐微流 伊蘇能佐岐淤知受 和加久佐能 都麻母多勢良米 阿波母與 賣邇斯阿禮婆 那遠岐弖 遠波那志 那遠岐弖 都麻波那斯 阿夜加岐能 布波夜賀斯多爾 牟斯夫須麻 爾古夜賀斯多爾 多久夫須麻 佐夜具賀斯多爾 阿和由岐能 和加夜流牟泥遠 多久豆怒能 斯路岐多陀牟岐 曾陀多岐 多多岐麻那賀理 麻多麻傳 多麻傳佐斯麻岐 毛毛那賀邇 伊遠斯那世 登與美岐 多弖麻都良世

如此歌、卽爲宇伎由四字以音而、宇那賀氣理弖六字以音、至今鎭坐也。此謂之神語也。

簡単な解説

この歌は、大国主神とて須世理比売命のことは好きなんですよね。けど諸国を平定するにあたり、その土地の姫を娶る必要があったのでしょう。「仕事だよ、仕事」ってやつでしょう。

しかし須世理比売命としては、わかってはいるものの、そこはやっぱり女心ですよ。

この歌で結局は大国主神は倭国へ行かずに、宇迦山の宮に留まったということなんですが、、、

この歌、怖くないですか?

恋敵の沼河比売が大国主神に返した歌の内容とそっくりなんですよ。どこで知ったのか、、、

これが怖くて、倭国に行けなかったのかも。。。

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