古事記|11代垂仁天皇③|沙本毘古王の謀反
沙本毘古王の陰謀
垂仁天皇が沙本毘賣(サホビメ)を皇后とされていた時のことです。
沙本毘賣命の兄の沙本毘古王(サホビコの皇子)が、妹である皇后に尋ねたました。
「お前は、夫の天皇と実の兄である私と、どちらが大事だ?」
「お兄様です。。。」
「本当に私のことを大事に思うならば、お前と私とで天下を治めようではないか。」
と陰謀を持ちかけました。そして、鍛え抜いた紐小刀を渡して言いました。
「この小刀で、天皇が寝ているところを刺し殺すのだ!」
ある時、天皇は、そんな企てがあるとは露知らず、皇后の膝枕で休んでおられました。
皇后は紐小刀で天皇の首を刺そうと三度試みましたが、そこは、か弱い姫のこと。刺すことができず、耐え切れず、涙をこぼしました。
その涙が天皇のお顔に落ちとき、天皇はふっと目覚められて、言いました。
「私は今、不思議な夢を見た。沙本(佐保)の方から大雨が降りだし、その雨が私の顔に掛かったり、錦色の小さな蛇が私の首に巻きついたりした、おかしな夢だった。この夢はいったい何を予見しているのだろうか。」
それを聞いた皇后は、良心の呵責に耐え切れずに、打ち明けてしまいました。
「私の兄の沙本毘古王が、私に、夫と兄のどちらが大事か尋ねました。ついつい・・・お兄様です・・・と答えてしまいました。
すると、・・・俺とお前とで天下を治めよう。その為に天皇を殺せ・・・と言って、小刀を渡されました。
私はあなた様の頸を刺そうと、三度試みましたが、悲しみの情に耐えられなくなり、刺すことができずに、私の涙がお顔を濡らしてしまいました。
ご覧になられた夢はこのことを表しているのでしょう。。。」
原文
此天皇、以沙本毘賣爲后之時、沙本毘賣命之兄・沙本毘古王、問其伊呂妹曰「孰愛夫與兄歟。」答曰「愛兄。」爾沙本毘古王謀曰「汝寔思愛我者、將吾與汝治天下。」而、卽作八鹽折之紐小刀、授其妹曰「以此小刀、刺殺天皇之寢。」故、天皇不知其之謀而、枕其后之御膝、爲御寢坐也。爾其后、以紐小刀爲刺其天皇之御頸、三度擧而、不忍哀情、不能刺頸而、泣淚落溢於御面。
乃天皇驚起、問其后曰「吾見異夢。從沙本方暴雨零來、急沾吾面。又錦色小蛇、纒繞我頸。如此之夢、是有何表也。」爾其后、以爲不應爭、卽白天皇言「妾兄沙本毘古王、問妾曰、孰愛夫與兄。是不勝面問故、妾答曰愛兄歟。爾誂妾曰、吾與汝共治天下、故當殺天皇云而、作八鹽折之紐小刀授妾。是以、欲刺御頸、雖三度擧、哀情忽起、不得刺頸而、泣淚落沾於御面。必有是表焉。」
簡単な解説
特にございません。
沙本毘古王軍を包囲
「もう少しでだまされるところであったわ!」
と、天皇は仰せられて、沙本毘古王を誅殺しようと軍を差し向けます。
沙本毘古王は稲城(いなき)を作り、応戦しました。この時、沙本毘賣命は、兄を思う気持ちから、宮廷の裏門から逃げ出て、稲城に入りました。
天皇は、皇后が身篭っていることを知っているのはもちろんのこと、三年間も仲良く睦まじく暮らしていた思いがあります。
ですから、稲城を包囲したままで、攻撃はしませんでした。
この間に、皇后は、御子をお生みになり、その御子を稲城から外に逃がすために天皇に遣いを出しました。
「もし、この御子をご自身の御子であると思いくださるならば、お育てくださいませ。」
それを聞いた天皇は、
「そなたの兄は憎いけれども、そなたへの愛はかけがえのないものなのだ。。。」
と、おっしゃいました。
そこには、皇后を取り戻したいというお心があったからです。
原文
爾天皇詔之「吾殆見欺乎。」乃興軍擊沙本毘古王之時、其王作稻城以待戰。此時沙本毘賣命、不得忍其兄、自後門逃出而、納其之稻城、此時其后妊身。於是天皇、不忍其后懷妊及愛重至于三年、故廻其軍不急攻迫。如此逗留之間、其所妊之御子既產。故出其御子、置稻城外、令白天皇「若此御子矣天皇之御子所思看者、可治賜。」於是天皇詔「雖怨其兄、猶不得忍愛其后。」故卽有得后之心。
簡単な解説
特にございません。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません