おのごろ嶋
伊弉諾尊(いざなきのみこと)と伊弉冉尊(いざなみのみこと)とが、天浮橋(あめのうきはし)の上にお立ちになり、二人で相談されておっしゃいました。
「この下には、なぜ国はないのだ?」
そこで、玉のついた矛「天之瓊矛(あめのぬぼこ)」を差し入れて、これを探ると、滄溟(青海原)ができました。
その矛の先から滴った潮が固まって、一つの嶋が成りました。名を磤馭慮嶋(おのごろしま)といいます。
二柱の神はその嶋に降り立って、夫婦で洲国(くに)を生もうと思いました。
原文
伊弉諾尊・伊弉冉尊、立於天浮橋之上、共計曰「底下、豈無國歟」廼以天之瓊 瓊、玉也、此云努矛、指下而探之、是獲滄溟。其矛鋒滴瀝之潮、凝成一嶋、名之曰磤馭慮嶋。二神、於是、降居彼嶋、因欲共爲夫婦産生洲國。
簡単な解説
滄溟(青海原)ができた
さりげなく書かれていますが、「海」は伊弉諾尊と伊弉冉尊によってつくられたということになりますね。
天地開闢の段で天と地が分かれました。泥のようなものがあったり、水に浮かぶ脂のようなものがあったりしましたので、うっかり「水」があった、すなわち「海」があったと思い込んでました。(私だけ?)
そういえば、これらには「例えていうなら、、、」という注釈がついてましたよね。
天地開闢の段階では、まだ「海」は存在しなかったのです!
おのごろ嶋
その出来たばかりの海に、島が一つ出来上がりました。「おのごろ嶋」です。
「自ずからずから凝り固まった嶋」なので、自凝おのごろ嶋です。
我国発祥の地「おのごろ嶋」は何処?興味深いですね。その候補地を、いくつかご紹介すると、、、
- 友ヶ島の島々・・・平安時代の「新撰姓氏録」による。
- 沼島・・・平安時代「新撰亀相記」、鎌倉末期「釈日本紀」による。(最有力)
- 絵島・・・本居宣長の「古事記伝」による。
このように、淡路島周辺の小島を伝承地とする説が有力なようです。
そんな中、いやいや淡路島そのものの中にあるのよ!という説を唱えるのが、「おのごろ島神社」です。古代、そこは入り江になっていて、その入り江の中にポッカリと浮かぶ島だったといいます。
他にも、いろんな地方のいろんな方々が、「オノゴロ嶋はここ!」と自説を唱えています。ググると面白いですよ。
初めての結婚
そこで、おのごろ嶋を以って国の中心の柱に見立てて、陽神(をかみ)が左周りに、陰神(めかみ)が右周りに、分かれて国柱を回られ、柱の向こう側で会いました。
その時、陰神が先にいいました。
「まあ嬉しい。いい少男(おのこ)と逢えました。」
ところが陽神は喜びません。
「私は男子だから、私から先に言葉を掛けるのが道理である。それなのに、なんで婦人から先に声を掛けたのだ。これは不吉であるからして、改めて周り直すのがよかろう。」
とおっしゃいました。
そのため、二神は戻ってから、改めて会うことにしました。
今度は陽神が先におっしゃいました。
「なんと嬉しいことか。良き少女(をとめ)と逢えるとは。」
陽神が陰神に問いました。
「あなたの体に何かできたところはあるか。」
対して陰神が答えるには、
「私の体に、一つの女の元ができました。」
すると、陽神が、
「私の体にも、男の元ができた。私の男の元をあなたの女の元に合わせたいと思う。」
とおっしゃいました。
このようにして、陰神と陽神とは初めて合わさり夫婦となりました。
原文
便以磤馭慮嶋爲國中之柱 柱、此云美簸旨邏 而陽神左旋、陰神右旋、分巡國柱、同會一面。時陰神先唱曰「憙哉、遇可美少男焉。」少男、此云烏等孤。陽神不悅曰「吾是男子、理當先唱。如何婦人反先言乎。事既不祥、宜以改旋。」於是、二神却更相遇、是行也、陽神先唱曰「憙哉、遇可美少女焉。」少女、此云烏等咩。因問陰神曰「汝身、有何成耶。」對曰「吾身有一雌元之處。」陽神曰「吾身亦有雄元之處。思欲以吾身元處合汝身之元處。」於是、陰陽始遘合爲夫婦。
簡単な解説
陽神と陰神
おのごろ嶋を造るまでは「伊弉諾と伊弉冉」。しかし、おのごろ嶋に降り立った後は「陽神と陰神」に変化しています。
男女の性の違いを猛烈にアピールしている感が出ています。そして、ここからは「神も性の交わりで生まれる時代になるのだ!」という区切りとしての役割も帯びていると思われます。
そして、女神・男神といわずに、陰神・陽神としています。陰陽思想を意識しているのでしょう。
陰と陽が調和することで自然の秩序が保たれるわけです。森羅万象すべてのものは、陰陽が正しく作用しているから存在し得るとも解釈できましょう。
そういう意味で、陰神から声を掛けるという行為は正しい作用では無いから、伊弉諾尊はやり直しを提案したのでしょう。
雌元之處と雄元之處
この表現が素晴らしくいいと思うのです。何を指すかは、今更言わなくても誰でもわかるでしょう。
それをば、女の元(はじめ)の所、男の元(はじめ)の所とは、、、
どんなにスゴイ売れっ子小説家でも、この表現は思いつかないと思いますよ。
コメント