日本書紀|第十二代 景行天皇③|豊前の平定

2020年10月29日

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豊前の平定-神夏磯媛と三人の賊-

景行12年(82年)

七月 熊襲が背いて貢物をしませんでした。

八月十五日 天皇は(熊襲を征伐するために)筑紫に行幸されました。

九月五日 周芳の娑麼(さば)に着かれました。

時に天皇は南をご覧になり、群卿に、

「南の方に多くの煙が立ち昇っておる。おそらくは賊がいるのであろう。」

とおっしゃり、そこで留まり、まずは、多臣(おほのおみ)の祖の武諸木(たてもろき)と国前臣(くにさきのおみ)の祖の菟名手(うなて)・物部君(もののべのきみ)の祖の夏花(なつはな)を遣わして、状況を視察させました。

すると神夏磯媛(かむなつそひめ)という女性がいて、その女性は多くの部下を持つ、一国の首領でした。

天皇の使者が来たと聞いて、磯津山(しつのやま)の賢木(さかき)を根っこごと引き抜き、上の枝には八握劒(やつかのつるぎ)を掛け、中の枝には八咫鏡(やたのかがみ)を掛け、下の枝には八尺瓊(やさかのに)を掛け、更に白旗を船舳(ふなのへ)に立てて、使者に

「願わくば兵を差し向けないでください。我が配下には、決して背く者はおりませんので、今すぐ帰順いたします。ただ、残忍な賊がおります。

一人目は鼻垂(はなたり)といい、みだりに仮の名を名乗り、山や谷に響き渡るほどに菟狭(うさ)の川上に集結しております。

二人目は耳垂(みみたり)といい、残酷かつ貪欲、人民の略奪を繰り返す輩で、御木(みけ)の川上におります。

三人目は麻剥(あさはぎ)といい、水面下で徒党を集めて、高羽(たかは)の川上におります。

四人目は土折猪折(つちをりゐをり)といい、緑野の川上に隠れ住み、山川が険しいことをいいことに、人民から略奪しています。

この4人です。その拠点は要害の地で、それぞれが手下を持ち、その地の長となっております。

彼等は『天皇の命令には従わない。』と申しております。早急に討ち取ってくださいませ。機を逸しないうちに。」

と申し上げました。

武諸木らは、まず、麻剥(あさはぎ)を誘いました。赤い衣や袴など、様々な珍しいものを与え、従わない他の三人も併せて招ねくよう命じました。

三人は、配下の衆を引き連れてやってきたので、悉く捕まえてこれを誅殺しました。

天皇は筑紫に着かれて、豊前国(とよのくにのみちのくちのくに)の長峽縣(ながおのあがた)に行宮(かりみや)を建てられました。よって、この地を京(みやこ)といいます。

 原 文

十二年秋七月、熊襲反之不朝貢。八月乙未朔己酉、幸筑紫。九月甲子朔戊辰、到周芳娑麼。時天皇南望之、詔群卿曰「於南方烟氣多起、必賊將在。」則留之、先遣多臣祖武諸木・國前臣祖菟名手・物部君祖夏花、令察其狀。

爰有女人、曰神夏磯媛、其徒衆甚多、一國之魁帥也。聆天皇之使者至、則拔磯津山之賢木、以上枝挂八握劒、中枝挂八咫鏡、下枝挂八尺瓊、亦素幡樹于船舳、參向而啓之曰「願無下兵。我之屬類、必不有違者、今將歸德矣。唯有殘賊者、一曰鼻垂、妄假名號、山谷響聚、屯結於菟狹川上。二曰耳垂、殘賊貧婪、屢略人民、是居於御木木、此云開川上。三曰麻剥、潛聚徒黨、居於高羽川上。四曰土折猪折、隱住於緑野川上、獨恃山川之險、以多掠人民。是四人也、其所據並要害之地、故各領眷屬、爲一處之長也。皆曰『不從皇命。』願急擊之。勿失。」於是、武諸木等、先誘麻剥之徒。仍賜赤衣・褌及種々奇物、兼令撝不服之三人。乃率己衆而參來、悉捕誅之。天皇遂幸筑紫、到豐前國長峽縣、興行宮而居、故號其處曰京也。

 ひとことメモ

神夏磯媛

神夏磯媛は田川市夏吉地区開拓の祖神といわれ、夏吉の「若八幡神社」に地主神としてお祭りされています。

ここは香春岳の麓に位置しますので、彼ら一族は、香春岳から採掘される銅に係る一族だったと思われます。だからこそ、景行天皇は神夏磯媛と組んだとも考えることができそうです。

彼女らは、降服の印として白旗を船先に立てたと記されていますが、降服するときの白旗は、中国や朝鮮半島の風習らしいですよ。

賊の拠点

4人の賊の居場所は、下記の通りです。(参考文献:大分県史)

  • 菟狭の川上・・・大分県宇佐市の駅館川の上流。安心院町・院内町あたりのこと。
  • 御木の川上・・・山国川の上流。大分県中津市の耶馬渓・山国あたりのこと。
  • 高羽の川上・・・彦山川の上流。福岡県田川市あたりのこと。
  • 緑野の川上・・・紫川の上流。北九州市小倉南区の紫川沿岸部周辺のこと

長狭の宮

行橋市を流れる長狭川を河口から上流に遡ること約10km。御所ケ岳の麓に「御所ヶ谷神籠石 礎石建物跡」という遺跡があり、これが長狭宮の礎石だといわれているようです。

平な場所に礎石が置かれていて、その中央に「景行神社」がお祭りされています。

 

 

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