第七段 一書(3)①|岩戸隠れと誓約(異伝)

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素戔嗚尊の悪行

ある書では、このように伝えられています。

それから、、、

日神の営む田は三か所ありました。これを、天安田(あめのやすた)、天平田(あめのひらた)、天邑并田(あめのむらあはせた)といいます。

これらは、みな良い田で、長雨や日照りになっても被害に遭うことはありませんでした。

一方、素戔嗚尊の田もまた三か所ありました。これを、天樴田(あめのくひた)、天川依田(あめのかはよりた)、天口鋭田(あめのくちとた)といいます。

これらは、みな悪い田で、雨が降れば流され、日照りになれば焼けてしまいました。

そんなことで、素戔嗚尊は嫉んで、姉の御田に害を与えました。

春には、用水路を壊し、溝を埋め、畦を壊し、二重に種まきをしました。また、秋には、串を立てて自分の物にしたり、馬を放って田を荒らしたりしました。

これらの様々な悪行は、止む様子がありません。しかし、日神は咎めることなく、常に穏やかな寛大な心でお許しになりました。以下略。

原文

一書曰、是後、日神之田有三處焉、號曰天安田・天平田・天邑幷田、此皆良田、雖經霖旱無所損傷。其素戔嗚尊之田、亦有三處、號曰天樴田・天川依田・天口鋭田、此皆磽地、雨則流之、旱則焦之。故、素戔嗚尊、妬害姉田、春則廢渠槽及埋溝・毀畔・又重播種子、秋則捶籤・伏馬。凡此惡事、曾無息時、雖然、日神不慍、恆以平恕相容焉、云々。

簡単な解説

天安田・天平田・・天邑并田

日神の御田の名前です。名は体を表すわけで、、、

安田は耕しやすい田、平田は平な田、邑井田は田がたくさん集まっている様子を表していると言われています。(并は併の旁で、併せるという意味です。)

天樴田・天川依田・天口鋭田

こちらは、素戔嗚尊の田の名前。こちらも名は体を表してまして、、、

樴田は切り株とか根っこの多い田、川依田は川沿いの田、口鋭田は実った稲穂がすぐに朽ちる田とか言われています。

新たな天津罪

樋放(ひはなち)
田に水を引くための用水管(樋)を壊す行為

串刺(くしさし)
田に串を指して、自分の者であると主張する行為

 

天石窟隠れ

日神が天石窟(あめのいはや)に籠ってしまわれたので、神々は中臣連の遠祖である興台産靈(こごとむすひ)の子の天兒屋命(あめのこやねのみこと)を遣わして祈らせることにしました。

そこで、天兒屋命は、天香山の榊を根っこごと掘り起こし、その上の枝には鏡作の遠祖である天抜戸(あめのぬかと)の子の石凝戸邊(いしこりとべ)が作った八咫鏡(やたのかがみ)を掛け、中の枝には玉作の遠祖である伊弉諾尊の子の天明玉(あめのあかるたま)が作った八坂瓊の曲玉(やさかにのまがたま)を掛け、下の枝には粟国之忌部(あはのくにのいみべ)の遠祖である天日鷲(あめのひわし)が作った木綿(ゆふ)を掛けました。

その飾りを忌部首(いみべのおびと)の遠祖である太玉命(ふとたまのみこと)に持たせて、広く厚い祈りの詞を申し上げさせました。

すると、日神はこれを聞かれて、

「今まで、多くの者が私に祈りの詞を申してきたが、未だかつてこのように美しい祝詞は聞いたことがない」

と仰せられて、細めに磐戸を開け、外の様子を窺いました。

その時、天手力雄神(あめのたちからをのかみ)が磐戸の側(そば)に隠れていて、即座に磐戸を引き開けると、日神の光が天地に満ち溢れました。

そこで、神々は大いに喜び、素戔嗚尊に多くの祓物を納めさせ、手の爪を吉を呼び込むための祓物として、足の爪を凶を取り除くための祓物とし、さらに、天兒屋命にその祓えの厳かな祝詞を唱えさせました。

(世の人が自分の爪を謹んで納め隠すのは、これが由縁でなのです。)

このようにして、神々は素戔嗚尊を責め、

「おまえの行いは、はなはだ無法です。ゆえに、天上に住んではならない。また葦原中国にも住んではならぬ。すぐに底根之国(そこつねのくに)に行け」

と言って、皆で追放しました。

この時、長雨が降っていました。素戔嗚尊は青草を束ねたものを笠と蓑として、神々に宿を乞いました。しかし、神々は

「おまえは、自分の行いが穢らわしく悪かったから、天から追放され責めを負っている神なんだぞ。どうして我らに宿を乞うことができようか!」

と言って皆が断りました。

この為、風雨に難儀しながらも休むこともできず、苦しく辛い思いをしながら降って行きました。

これより後、世の人は、笠蓑を着たまま他人の家の中に入ることを嫌うようになりました。また、束ねた草を背負って他人の家の中に入ることも嫌うようになったのです。

この慣わしを破った者は必ず罰を受けます。これは太古より残っている掟なのです。

原文

至於日神閉居于天石窟也、諸神遣中臣連遠祖興台産靈兒天兒屋命而使祈焉。於是、天兒屋命、掘天香山之眞坂木、而上枝懸以鏡作遠祖天拔戸兒石凝戸邊所作八咫鏡、中枝懸以玉作遠祖伊弉諾尊兒天明玉所作八坂瓊之曲玉、下枝懸以粟國忌部遠祖天日鷲所作木綿、乃使忌部首遠祖太玉命執取、而廣厚稱辭祈啓矣。于時、日神聞之曰「頃者人雖多請、未有若此言之麗美者也。」乃細開磐戸而窺之。

是時、天手力雄神、侍磐戸側、則引開之者、日神之光、滿於六合。故、諸神大喜、卽科素戔嗚尊千座置戸之解除、以手爪爲吉爪棄物、以足爪爲凶爪棄物。乃使天兒屋命、掌其解除之太諄辭而宣之焉。世人愼收己爪者、此其緣也。既而、諸神、嘖素戔嗚尊曰「汝所行甚無頼。故不可住於天上、亦不可居於葦原中國。宜急適於底根之國。」乃共逐降去。于時、霖也。素戔嗚尊、結束靑草、以爲笠蓑、而乞宿於衆神。衆神曰「汝、是躬行濁惡而見逐謫者。如何乞宿於我。」遂同距之。是以、風雨雖甚、不得留休、而辛苦降矣。自爾以來、世諱著笠蓑以入他人屋內、又諱負束草以入他人家內。有犯此者必債解除、此太古之遺法也。

簡単な解説

天兒屋命、太玉命、天手力雄神は尊称付で、天抜戸、石凝戸邊、天明玉、天日鷲は尊称なしです。神様にも格の違いがあるのでしょうか。

興台産靈(こごとむすひ)

「こごと」は「言葉」。興台産靈(こごとむすひ)は、「言葉に宿る神霊」となります。すなわち「言霊」でしょう。

ですから、その子が、言葉=詞(ことば)を司る、「祝詞の神」天兒屋命なんですね。

天明玉(あめのあかるたま)

一書(2)では、豊玉という神が八坂瓊の曲玉を作ってます。この一書(3)の明玉命とともに、古事記の玉祖命と同一神とされています。

天日鷲(あめのひわし)

忌部氏の遠祖です。同じく忌部氏の遠祖とされる太玉命を支える四天王?の内の一柱。

粟国を開拓したので粟国之忌部の遠祖と紹介されているのです。

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