第九段 一書(6)|天孫降臨(異伝)
第九段 一書(6)
ある書では、このように伝えられています。
天忍穂根尊(あまのおしほねのみこと)が、高皇産霊尊(たかみむすひのみこと)の娘の栲幡千千姫萬幡姫命(たくはたちぢひめよろづはたひめのみこと)、[ 亦(また)は、高皇産霊尊の子の火之戸幡姫兒千千姫命(ほのとはたひめこちぢひめのみこと)] を娶って、
- 天火明命(あめのほのあかりのみこと)をお生みになりました。
- 次に天津彥根火瓊瓊杵根尊(あまつひこねほのににぎねのみこと)が生まれました。
天火明命の子の天香山(あめのかぐやま)は尾張連等の遠祖です。
「葦原中国は大きな岩、木の株や草葉までもが、ものを言う。夜は甕の中で焚く火の粉のごとく騒がしく、昼は五月の蝿のようにうるさい。」
以下省略。
高皇産霊尊は、
「昔、天稚彥(あめのわかひこ)を葦原中国に遣わしたが、今に至るまで久しく戻って来ないのは、国神が抵抗しているからだろうか。」
とおっしゃいました。
そこで、無名の雄雉(ななしのをきぎし)を物見に遣わしました。この雉は降りていきましたが、粟畑や豆畑に留まって帰りませんでした。
これが世に言う、雉頓使(きぎしのひたつかひ)の謂れです。
そこで、今度は、無名の雌雉(ななしのめきぎし)を遣わしました。この雉は降りていきましたが、天稚彥に射られて、その矢が天上に戻って報告をしました。
以下省略。
高皇産霊尊は、真床覆衾(まとこおふふすま)を皇孫の天津彥根火瓊瓊杵根尊に着せて、天八重雲を押し分けて、天降らせました。
そこで、この神を讃えて、天国饒石彥火瓊瓊杵尊(あめ くに にぎ し ひこほのににぎのみこと)といいます。
天降った場所を日向の襲の高千穂の添山峯(そほりのやまのたけ)といいます。そこから先に進む時に、、、
以下省略。
吾田(あた)の笠狹之御碕(かささのみさき)に着きました。長屋(ながや)の竹島(たかしま)に登って、周りをご覧になると、人がいました。名を事勝国勝長狹(ことかつくにかつながさ)といいます。
天孫が
「ここは誰の国か。」
と尋ねると、
「ここは長狹(ながさ)が住む国ですが、今、天孫に献上します。」
と答えました。
再び、天孫が
「あの波頭が高く立っているところに、大きな屋敷を建てて、手玉をゆらゆらと爽やかに鳴らして機を織っている少女は、誰の娘か。」
と尋ねると、
「大山祇神の娘たちで、姉を磐長姫(いはながひめ)と言い、妹を木花開耶姫(このはなのさくやひめ)[亦の名は豊吾田津姫(とよあたつひめ)]といいます。」
と答えました。
以下省略。
皇孫が豊吾田津姫を召されると、一夜にして身籠りました。これを皇孫は疑いました。
以下省略。
そして、火酢芹命(ほのすせりのみこと)を生みました。
次に、火折尊(ほのおりのみこと)を生みました。[亦の名は彥火火出見尊]
母の誓約(うけい)は、すべて叶いました。しかし、母の豊吾田津姫は疑った皇孫を恨んで、口を利きませんでした。皇孫は寂しくなり歌を詠みました。
原文
一書曰、天忍穗根尊、娶高皇産靈尊女子幡千千姬萬幡姬命・亦云高皇産靈尊兒火之戸幡姬兒千千姬命、而生兒天火明命、次生天津彥根火瓊瓊杵根尊。其天火明命兒天香山、是尾張連等遠祖也。及至奉降皇孫火瓊瓊杵尊於葦原中國也、高皇産靈尊、勅八十諸神曰「葦原中國者、磐根・木株・草葉、猶能言語。夜者若熛火而喧響之、晝者如五月蠅而沸騰之」云々。 時高皇産靈尊勅曰「昔遣天稚彥於葦原中國、至今所以久不來者、蓋是國神有强禦之者。」乃遣無名雄雉、往候之。此雉降來、因見粟田・豆田、則留而不返。此世所謂、雉頓使之緣也。故、復遣無名雌雉、此鳥下來、爲天稚彥所射、中其矢而上報、云々。是時、高皇産靈尊、乃用眞床覆衾、裹皇孫天津彥根火瓊瓊杵根尊、而排披天八重雲、以奉降之。故稱此神、曰天國饒石彥火瓊瓊杵尊。于時、降到之處者、呼曰日向襲之高千穗添山峯矣。及其遊行之時也、云々。 到于吾田笠狹之御碕、遂登長屋之竹嶋。乃巡覽其地者、彼有人焉、名曰事勝國勝長狹。天孫因問之曰「此誰國歟。」對曰「是長狹所住之國也。然今乃奉上天孫矣。」天孫又問曰「其於秀起浪穗之上、起八尋殿、而手玉玲瓏、織經之少女者、是誰之子女耶。」答曰「大山祇神之女等、大號磐長姬、少號木花開耶姬、亦號豐吾田津姬。」云々。皇孫因幸豐吾田津姬、則一夜而有身。皇孫疑之、云々。遂生火酢芹命、次生火折尊、亦號彥火火出見尊。母誓已驗、方知、實是皇孫之胤。然、豐吾田津姬、恨皇孫不與共言。皇孫憂之、乃爲歌之曰、 憶企都茂播 陛爾播譽戻耐母 佐禰耐據茂 阿黨播怒介茂譽 播磨都智耐理譽 |
かんたん解説
栲幡千千姫萬幡姫命(たくはたちぢひめよろづはたひめのみこと)
栲幡千千姫と萬幡姫命の二柱の姫のように思えますが、これで一柱だそうですよ。
亦の名の火之戸幡姫兒千千姫命(ほのとはたひめこちぢひめのみこと)なんて、火之戸幡姫と児の千千姫命と読めてしまいますから、実は母と子の二柱の姫を娶ったのでは?と勘繰りたくなります。
天火明命(あめのほのあかりのみこと)
これまでの書で登場した火明命は、瓊瓊杵尊の御子でした。ここでは兄として登場します。古事記でも兄として登場します。
先代旧事本紀では、この天火明命を「天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊」と称して、物部氏の祖としています。そして、瓊瓊杵尊よりも先に降臨したことになっています。
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