21代雄略天皇③|倭の国は秋津洲(あきつしま)

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吉野の乙女

現代語

また、天皇が吉野宮(よしののみや)にお出ましになられた時、吉野川の畔に美人の乙女がおりました。

その姿が実に麗しかったので、交ぐわいされて、宮にお帰りになられました。

その後、また吉野に行かれた時、以前の乙女に会った場所で、大御呉床を立てて、そこに座って琴を弾かれ、その乙女に舞を舞わせました。

乙女の舞があまりにも見事だったので、天皇が詠まれた歌は、

台座に座り
神の手が弾く琴に舞う女
永遠なれ

原文

天皇幸行吉野宮之時、吉野川之濱、有童女、其形姿美麗。故婚是童女而、還坐於宮。後更亦幸行吉野之時、留其童女之所遇、於其處立大御吳床而、坐其御吳床、彈御琴、令爲儛其孃子。爾因其孃子之好儛、作御歌、其歌曰、

阿具良韋能 加微能美弖母知 比久許登爾 麻比須流袁美那 登許余爾母加母

簡単な解説

吉野宮

 

秋津洲(あきつしま)

現代語

阿岐豆野にお出ましになって狩りをしたとき、天皇は御呉床に座っておられました。

すると、虻が腕に食いつき、そこへ蜻蛉(あきづ)が飛んできて、その虻を食べて飛んでいきました。

その時に、天皇が詠まれた歌は、

三吉野の小牟婁が岳に獣が伏すと誰かが御前に報告し、
わが天皇が獣を待って御呉床に座っていると、
衣の袖のところの腕に虻が噛みつき、

その虻を蜻蛉(あきつ)が素早く咥えた。
これを、何と名付けようか。
倭の国を秋津洲と呼ぼう。

この時から、この野を阿岐豆野(あきづの)といいます。

原文

卽幸阿岐豆野而、御獦之時、天皇坐御吳床。爾咋御腕、卽蜻蛉來、咋其而飛。訓蜻蛉云阿岐豆。於是作御歌、其歌曰、

美延斯怒能 袁牟漏賀多氣爾 志斯布須登 多禮曾 意富麻幣爾麻袁須 夜須美斯志 和賀淤富岐美能 斯志麻都登 阿具良爾伊麻志 斯漏多閇能 蘇弖岐蘇那布 多古牟良爾 阿牟加岐都岐 曾能阿牟袁 阿岐豆波夜具比 加久能碁登 那爾淤波牟登 蘇良美都 夜麻登能久爾袁 阿岐豆志麻登布

故、自其時、號其野謂阿岐豆野也。

簡単な解説

阿岐豆野(あきづの)

吉野郡吉野町宮滝から対岸の御園一帯とされています。

秋津洲

雄略天皇の段では、このように、吉野の阿岐豆野から秋津洲という異名が生まれたとなっておりますが、

6代考安天皇の段に「葛城の室の秋津島宮に都を定めて」とありますことから、御所市室あたりの旧地名から生まれたともいわれています。

さらに、日本書紀では、神武天皇が国内を見回られて山に登って「トンボが繋がっているように見える」と言ったと記述がある。このことから秋津嶋の異名が生まれたとも。

いずれにしても、大和国の異名となり、やがて日本国土の異名として拡大されていきました。

秋の収穫の時期に群れて飛ぶトンボに五穀豊穣や子孫繁栄を重ね合わせて、そこに神威を見出したのでしょう。

ですので、これは単なる異名ではなく「美称」であることを再認識しておきましょう。

 

葛城之山の大猪

現代語

ある時、天皇が葛城山(かづらきのやま)に登られましたとき、突然大きな猪が現れました。

すぐに天皇が鏑矢で猪を射たところ、猪は怒って唸り声をあげて天皇に向かって近づいてきました。

天皇は猪のうなり声を恐れて、榛の木に登って、詠まれた歌

この大王様が射抜きあそばした
手負いの猪のうなり声を畏れて、
私は逃げ登った峯の上の榛の枝よ

原本

又一時、天皇登幸葛城之山上。爾大猪出、卽天皇以鳴鏑射其猪之時、其猪怒而、宇多岐依來。宇多岐三字以音。故、天皇畏其宇多岐、登坐榛上、爾歌曰、

夜須美斯志 和賀意富岐美能 阿蘇婆志斯 志斯能夜美斯志能 宇多岐加斯古美 和賀爾宜能煩理斯 阿理袁能 波理能紀能延陀

簡単な解説

どうも、雄略天皇になってからの大長谷王は、おかしいですね。

怒ったかと思うと、贈り物でスッと許したり、ゴマ擦りにまんまと乗って許したり。(あとで出てきます)

今回も、猪に追いかけられて木に逃げ登るなんて、天皇に対する描写としては如何なものかと。

なんだか編纂者の感情が介入しているように思えてきました。

葛城山(かづらきのやま)

大阪南部と奈良県御所市の間に連なる山々の一つに葛城山がありますが、古代においては、その金剛山地そのものを葛城山と呼んでいたようです。

榛の木

樺の木の仲間で、低湿地帯に自生するらしいです。「丘の上の榛の木」というのは少しおかしいかもしれませんね。

木炭の材料として重宝されていたようです。ちなみに、油分が多いので生木でもよく燃えるので、北陸地方では火葬用の薪として使われたらしいですよ。

この大王様が、、、

この大王様が射抜きあそばした、、、というくだりは、自分で自分を敬する言い方です。「この大王様」というのも自分、射抜き「あそばした」のも自分のことです。

これを、木に抱き付きながら詠ったんです。滑稽ですね。

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